怖がって知ろうとしない人もいる
生まれつきの遺伝子の変化があるかどうかを調べる遺伝子検査は、以前は全額自己負担だったため、受けたくても断念する人が少なくなかった。
だが2020年4月以降、遺伝性乳がん卵巣がん症候群に関して、一定の要件を満たせば、保険診療で検査を受けられることになった。
有賀先生は「保険診療での遺伝子検査の普及の結果、これまで診断されなかった人が近年、診断されるようになったため、結果的に、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の人数が増えています。2015年と比べると、診断された人数は10倍以上に上ります」と話す。
ところが、遺伝子という言葉を聞いて、漠然と「怖い」「知りたくない」という人もいて、検査を受けない人が一定数いるのも現実だ。
「私たちの遺伝子情報は、両親から受け継ぎ、生涯変わることはありません。近年、遺伝子検査によって、個人の体質に合った医療の実現が期待されている反面、差別の問題も潜んでいます」(石田先生)
アメリカでは、雇用時に家族の病歴や遺伝子情報について要求され、損害賠償の請求にまで発展した事例もあるという。そういった遺伝子差別が検査をためらうひとつの要因にもなっているのだ。
昔と違い、今は打つ手がある
それでも「遺伝性のがんを取り巻く環境は、少しずつ変わってきています。適切な対処法も確立されてきていますので、過剰な心配は無用です」と石田先生は話す。
「自分が遺伝性のがんかどうかを知ることは、“守り”を固めることにつながります。たとえ、遺伝性のがんだと診断されたとしても、がんの特徴に合わせた予防法や定期検査、発症後の治療をすることで、自身はもちろん、大切な家族ががんで亡くなるリスクを減らすことができるはずです」(石田先生)
そこで、両先生の監修のもと、編集部が独自に“セルフチェックリスト”を作成した。自分の家系にがんが多いと気になっていた人などは、念のため試してみてはどうだろう。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群は一部で保険診療下での遺伝子検査が進んでいるので、それを上手に活用するのがポイントだ。
チェックリストに当てはまる血縁者がいて、まだ検査を受けていないようならすすめてみるのもひとつの手だろう。
リンチ症候群は、もし家族のことがよくわからなくても、ご自身が50歳未満で大腸がんになっていたり、60歳未満で大腸がんに複数回、または大腸がんと子宮体がんの両方と診断された場合も可能性はあるという。
「気になる人は上記の専門外来か、または、日本遺伝性腫瘍学会のホームページに遺伝性腫瘍専門医の名前と所属施設を公開していますので、参考にしていただければと思います」(石田先生)