娘と訪れたパリにもう一度
リタイア生活を謳歌していても、確実にせまる老い。小暮さんはどんな心がまえでいるのだろう。
「たしかに老いを感じてはいますが、母がまだ93歳で健在なせいか、人よりは楽観的かな。幸いまだまだ身体も動き、自分の時間がたっぷりあるので、今この時を楽しみたいですね」
小暮さんは、40歳のときに高校時代からの親友を病気で失った。そのとき、友人の分まで楽しもうと心に決め、迷ったら楽しいほうを選ぶことを大切にしてきたそう。
「その友人を亡くしたこともあって、私、友達は少ないんですよ。でもね、いつも誰かと一緒じゃなくていいと思う。自分の物差しで生きて、ひとりで行動できるって幸せなことです」
日々の暮らしを楽しむことはもちろんだが、未来に夢を持つことも今日を楽しく生きる糧となる。かつて娘さんと訪れたパリに、もう一度行きたいというのが今の小暮さんの夢だ。
「ただ街を歩いて、お茶飲んで、蚤の市を眺めて回るだけでいいの。それなのにコロナ禍になっちゃって、コロナが終わったら円安になっちゃって……。でも、絶対もう一度行きたいんです。パート時代、そのために頑張って貯金したんですから」
ちゃめっ気たっぷりに笑う表情の奥に、絶対に実現させるという強い思いが見えた。
老いの心得
●楽しいほうを選ぶ
●ひとりで行動する
●未来に夢を持つ
小暮涼子さん●子ども3人を育て上げ、リタイアした夫とふたり暮らしを謳歌中。雑誌『ナチュリラ』の取材を機に、Webマガジン「暮らしとおしゃれの編集室」にて連載をスタート。このたび、その連載をまとめた初の著書『60代大人暮らしの衣食住』を上梓。
取材・文/野沢恭恵 写真/小暮涼子さん本人