年を重ねると、薬の量は増えがちだ。特にシニアは、一度に数種類の薬を飲んでいる人が多い。厚生労働省の資料によると、75歳以上の人の約4割が5種類以上の薬を処方されているという。だが、薬の問題は、飲んでいる量の多さだけではない。
約4割の高齢者は5種類の薬を服用
世界中を騒がせた新型コロナウイルスのワクチンや、5人に1人がなるともいわれている認知症の薬など、新しい薬は次々と開発されている。つらい症状で困っている多くの人の役に立つために新薬は開発されるが──。
どの程度、安全性が確かめられているか、みなさんはご存じだろうか?
そこで薬の安全性と対処法について、これまで32の大学で教壇に立ち、約3万人の薬剤師を世に送り出してきたという薬剤師の鈴木素邦さんに話を聞いた。
新薬って、本当はどのくらい安全なの?
2023年9月に厚生労働省は、アメリカで開発された認知症の新薬に対する製造販売を、日本で正式承認した。
「この新薬レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因となるタンパク質、アミロイドβ(ベータ)を除去する力があります」(鈴木さん、以下同)
ただ、除去する過程で血管が脆くなり、脳の血管からわずかに出血したという副作用が1割ほどあったとアメリカでの臨床試験で報告されたという。
「このような副作用は、レカネマブのような薬では、一定数発生するものですが、本当に安全なのかどうか、心配な部分はあります」
どの薬にも、画期的な作用というメリットと、少数の副作用というデメリットがある。
「特に新薬は、人に対して実際に使用した臨床試験のデータが少ないので、副作用がどの程度なのか、ハッキリしないことが問題なのです」
ひとつの薬を開発するのには、9~16年かかるといわれている。長い時間と莫大なコストをかけることで、薬の効果や安全性が保たれているのだが……。
「臨床試験のデータはあくまで、限られた人数を対象にした結果で作られています。病院などの治療現場のように、年齢や性別、体質の違いや、長期間のほかの医薬品との併用など、さまざまな条件下で服用しているデータではないのです」