サラダ感覚で手軽に野菜を

 お漬物は、横山さんにとって食卓になくてはならないもの。

「旬の野菜がおいしく食べられるうえ、ほどよい塩けがごはんに合い、箸休めにも、お茶請けやお酒のつまみにもなる。信州育ちの私は、子どものころからお漬物に親しんできました。3度の食事にはもちろん、お茶の時間にもすべて母の手作りのお漬物がありました。その味を引き継いで、精進してきた私がいます」

 冬が長く、その間、野菜がとれない信州では、夏から秋にかけて収穫した野菜をいかに使いまわすか考え、お漬物という保存食を作ってきた。

「野沢菜は油で炒めることでβ-カロテンの吸収がよくなり、うまみも加わります。小松菜やかき菜など、身近な青菜でもおいしく作れますよ」 撮影/竹内章雄
「野沢菜は油で炒めることでβ-カロテンの吸収がよくなり、うまみも加わります。小松菜やかき菜など、身近な青菜でもおいしく作れますよ」 撮影/竹内章雄
【写真】長野県木曽地方に古くから伝わる保存食「すんき」を使った汁物

「同じ野菜でも、塩漬け、ぬか漬け、酢漬けと手を替え、味を変える工夫をする。そうした先人の知恵で、暮らしが支えられていると思っています。お漬物仕事をしていると、季節のうつろいを肌で感じることができるのもうれしいところ。

 春が来ると喜び勇んで山菜摘みに出かけて春の香りをビンに閉じ込め、夏には夏野菜をどっさり買い込み、秋冬用のお漬物にしたり。晩秋からは、春先まで食べまわすためのお漬物を漬け込みます」

 そうしているうちに、よりおいしく簡単に作れるアイデアも次々に湧き、横山さんのお漬物は進化してきたという。

「まずは30分~1時間でできる即席漬けから始めてみると敷居が低くなるでしょう。食卓にさっぱりしたお漬物があれば、ごはんが進むうえ、野菜を補充する役割も果たしてくれます。気軽に作って、日々の習慣とされるといいですね」

 そこでサラダ感覚で野菜が食べられる。きゅうりとなすを使った即席漬けを紹介してくれた。

「きゅうりは、にんにくの香りを移した油を使って、風味とコクをアップさせます。表面に切れ目を入れ、味しみよく。なすは塩漬けで飽きのこない味わいに。水分とともにアクが出るので、よく絞りましょう。その塩漬けを甘酢に漬けて、マイルドな味にするのもいいですね」