岩平先生のもとには、他院で乳房を再建したものの、とても満足できないという患者さんが訪れ、こうした再建の修正も手がけている。
「人工物は取り出せば元に戻りますが、自家組織の場合はそうはいきません。最悪の場合は移植した組織を取り除き、改めて人工物による再建を行うことになり、腹部や背中の傷だけが残ってしまうこともあります」
こうしたトラブルを避けるための病院選びについて、岩平先生は次のようにアドバイスする。
「大学病院や有名どころの病院がいいとは限らないので、病院の名前で選ばないこと。こうした病院は行くたびに医師が変わることもあります。やはり、この人なら信頼できると感じた医師が責任を持って担当してくれるところがいいですね」
再建は乳がん手術と同時に行うことも、期間を空けて行うこともできる。同時に行う一次再建は手術が1度ですみ、麻酔から覚めても胸の膨らみがなくなっていないので、喪失感を味わわずにすむメリットがある。
乳がん手術から期間を空けて行う二次再建では、ゆっくり時間をかけて再建手術に向き合い、術式の検討や病院選択ができる点がメリットだ。
「一概にどちらがいいとは言えませんが、乳がんといわれて命が助かるかどうかというときに、再建のことまで考えるのはかなり大変です。乳がん手術後に抗がん剤などの治療を終えてからでも再建できることは覚えておいてください」
おっぱいを作ればファッションも変わる
「再建が始まると、エキスパンダーにお水を入れてだんだん膨らんでくる時点で涙を流して喜ぶ人もいます。無事に再建を終えると9割以上の人の表情が明るくなり、身に着ける洋服の色まで変わってきますよ」
気になる費用は、人工物による再建の場合、健康保険を使い高額療養費を申請すれば自己負担は10万円程度。入院が必要な自家組織による再建はもう少し高くなる。左右のバランスをとるために反対側の胸をつり上げたり大きくしたりする手術や、再建のやり直しは自費となる。
「乳房再建は、乳がん手術後の喪失感や不便を解消し、前向きに生きるための治療の一環だといえます。何歳になろうと、再建を望むならためらう必要はありません」
理解不能!医師の信じられない一言
「再建するなら、乳がんがどうなっても知らないよ」
「結婚してるんだったら、今さら乳房はいらないでしょう」
「ペッタンコじゃないんだから、いいでしょ」
教えてくれた人……岩平佳子先生●形成外科医。東邦大学医学部形成外科学講座助教授等を経て、2003年、ブレストサージャリークリニックを開設。人工物による乳房再建の第一人者。著書に『これからの乳房再建BOOK』など。
取材・文/伊藤淳子