手術から2年後、真水さんは自身を含め、乳房再建手術を行った女性をモデルにした写真集を上梓した。
「手術前、再建したらどんな胸になるのか知りたかったのがきっかけ。病院で見た症例写真は、首から下の胴体だけなので、患者さんたちがどんな表情なのか、すごく気になっていたんです。それに、私と同じ自家組織再建をした人でも、担当医によってメスの入れ方は異なります。そういった違いも術前に知ってもらいたいと考えました」
選択肢のひとつであることを事前に知っておいてもらえたら
仲間と企画し、写真家の荒木経惟氏に撮影を依頼。モデルを集めて写真集の発売にこぎつけた。だが、写真集を乳房再建手術の国際的な学会で販売するも、当初、国内の医療関係者の反応は冷ややかなものもあった。
それでも患者たちの励みになりたいと、助成金を受けて全国の乳腺外科のある医療機関などに写真集を送り、受付に置いてもらえるようお願いした。やがて、写真集を見た患者やその家族から「勇気づけられた」「希望が持てた」といった声が届き、本も完売。
問い合わせも増えたため、今月、第2弾を発売する運びに。今回は写真家の蜷川実花さんによる撮り下ろしだ。
「蜷川さんが企画に賛同してくださって、とても温かい雰囲気の中で撮影ができました。写真も素敵に仕上がっているので楽しみですし、再建手術が特別なことではないことを知ってもらうチャンスにしていきたいです」
今回は医療関係者やさまざまな団体から支援や寄付が集まり、乳房再建への理解が深まっているのを実感したという。その一方で、再建への地域や年齢格差はいまだに根強いと感じることも多いそう。
「実際、再建手術がゼロの県もあります。そういった自治体では乳がん患者が最低限の情報も得られず、社会の理解も低い。高齢者は年齢を理由に“再建しなくていいよね”と置き去りにされがちなのも、看過できません」
どう治療するのかはそれぞれ個人の自由だが、情報は平等であるべき、と真水さん。
「理由はさまざまですが“孫と温泉に行きたい”と、70代や80代を過ぎて再建をする方もいます。乳がんになっていない女性にも、治療の中の選択肢のひとつであることを事前に知っておいてもらえたら」
蜷川実花さん特別メッセージ
今回の企画を聞き「誰かの背中を少しでも押すお手伝いができるなら」と、すぐに賛同したという蜷川さん。乳房再建をすすめるものではなく、再建を希望する人にとって“自分で判断するための情報のひとつになる写真集”という趣旨にも共感したそう。
撮影では、モデル一人ひとりと向き合う時間をつくり、“自分を肯定し、より愛せるきっかけ”になるようにスタッフ一丸となって挑んだ。
「モデルのみなさんは、つらいことを経験してきたからこそ、輝いている『今』があるので、その『今』を祝福できる写真にしたいと意識して臨みました。彼女たちの“輝く力”が、現場で携わった全員を元気にしてくれたように、写真集を見て、『こんな方法があるのか』『こんな人生があるんだ』と知っていただき、少しでも前向きな気持ちが芽生えるきっかけになったらうれしいです」
蜷川実花さん 写真家、映画監督。写真を中心に映像、空間インスタレーションも多く手がける。クリエイティブチーム「EiM」の一員としても活動。
第2弾写真集『New Born 乳房再建の女神たち』
30代~60代の乳房再建経験者12人を、蜷川実花さんが撮り下ろした。『New Born 乳房再建の女神たち』赤々舎より10月発売予定
取材・文/荒木睦美
真水美佳さん NPO法人エンパワリングブレストキャンサー(E-BeC)理事長。'08年に両側乳がんに罹患。'10年に写真集『いのちの乳房』を企画・出版。'13年にE-BeCを設立し、乳がん患者のQOL向上に尽力する。