直腸がんは「TNT治療」で切らずに治るがんに!?

 大腸がんは、食生活の欧米化(肉食、高脂肪)に伴い増加、日本のがん種別死亡率は女性では第1位。大腸に発生するがんは、結腸がんと直腸がんに大別されるが、そのうち直腸は骨盤内の狭い空間にあり、膀胱や生殖器などと近く、手術の難易度が高いといわれている。この分野にも切らない治療が導入されている。

「進行した直腸がんや肛門との距離が1センチに満たないがんには、手術がもっとも有効な治療です。ですが人工肛門が必要に。肛門との距離が長ければ肛門は温存できますが、術後には排便障害(回数の増加や量の低下、便失禁など)が生じます。直腸がんでは命を守るのと引き換えに、ある程度機能を犠牲にしなければならないのです。そこで当院が行っているのが、『集学的治療』です」

 こう語るのは、がん研有明病院直腸がん集学的治療センター長の秋吉高志先生。集学的治療とは、外科のみならず、放射線治療や化学(抗がん剤)療法の専門家の協力も仰ぎながら、チームになって行う治療のことをいう。

「この集学的治療を、直腸がんに対して術前に行う治療を『TNT治療』といいます。できることなら手術による人工肛門を回避して、さらには再発を防ぐのを目的としています。TNT治療を行ってもがんが再発、手術が必要となる場合もありますが、欧米ではすでに直腸がんの標準治療となっています。当院では2004年からは術前の放射線治療を、2011年からはTNT治療を行い、さらに2017年からは『積極的経過観察』を導入しています」(秋吉先生、以下同)

 積極的経過観察とは、症状を慎重に見守ることで、できる限り手術を避けようという治療のこと。術前の治療でがんが消滅して、手術なしで治ることがあるというのだ。

がんの進行度によって変わりますが、当院ではおよそ4割の患者さんがこれに当てはまり、これまで100人の患者さんに積極的経過観察を行っています」

 積極的経過観察では2~3か月ごとの外来検査こそ欠かせなくなるものの、「再発なし」ならば手術はしなくて済む。それが積極的経過観察を受けた患者の75~80%にもなり、人工肛門を回避できているというから期待が持てる。とはいえTNT治療もデメリットはある。