突然、腹痛に襲われて……

 術後はさまざまな身体のダメージに苦しんだ。

「2週間ほどで退院したのですが、傷の外も中も痛いし、歩くことも、満足に食べることもできない。何より排便が大変で、私の中では“がんより便”の問題が先決。その時は、抗がん剤治療をしてがんの再発に備えることよりも、目の前の術後のつらさをどう乗り切るかのほうが大事だったんです」

 やがて少しずつ体調も回復していき、徐々に普通の食事もとれるようになっていった。だが、突然の腹痛に襲われる。腸閉塞だった。

「3か月後の検診で主治医から“ずいぶんよくなりましたね”と言葉をかけられた矢先でした。手術の合併症のひとつで、腸管が癒着してしまったんです。シェイク用のストローのような太いチューブを鼻から大腸まで差し込んで行われる痛くてつらい治療で、3週間ほどの入院で、ごはんも食べられないし、体重も減ってしまって」

 がんの手術よりつらかったというこの時の経験が契機になって、“がんに負けない身体づくり”を意識するようになる。

「気力や体力が衰えたことで、そこにがんがつけ込んで再発するかも、と恐怖を覚えたんです。“腸を元気にして大腸がんの再発を予防すること”を最大限に意識して食生活を見直しました」

 まず心がけたのは便秘や下痢をしないこと。

「ありきたりですが、3食規則正しく食べることが大切。どんなに忙しくても食事を抜かず、できるだけ決まった時間に食べることで腸のリズムが整い、お通じもよくなります」

 次にお腹をいたわる食事をすること。おすすめは、食物繊維やヨーグルトなどの発酵食品。

「ただ、退院後は、ごぼうや玄米などの不溶性食物繊維や海藻類は消化不良を起こして腸閉塞の引き金になるので、里芋やもち麦など消化のいい水溶性食物繊維を選びました。もちろん個人差がありますから、自分のお腹に合ったものを食べるのがいいですが、同じものばかりだと偏ってよくないのでバランスよく食べることも大事です」

 腸内環境が整ってきたら、少しずつ腸の力を鍛えていく食事に移行する。

「お腹にやさしいものだけでは腸の力が弱くなってしまうので、ごぼうや海藻などどんなものでも食べるようにしました。繊維が大きいとお腹への刺激が強いので繊維を断ち切るように細かく刻んだり、やわらかく煮たりして刺激を少なくしながら普通の食事に戻していきました」

 同時に、よく噛むことも意識したそう。

「人の何倍も時間をかけてゆっくり食べました。二度とあんな思いはしたくないっていう恐怖心がありましたから。でも恐怖心だけだと食事がつまらない。なので、美味しく食べられるレシピを工夫したり、家族や友人と食卓を囲んで楽しく食べることも大切です」