その後、くらさんはセクシュアルマイノリティーに関する本を読みあさり、これまでの人生の“答え合わせ”をしていった。
「同じころ、両親にもカミングアウトしました。父は性同一性障害という言葉を知らないはずなのに、すべてを理解したような表情で『おまえの人生だ。おまえの思うように生きろ。お父さんは、何かあったらすぐにバックアップする』と言ってくれたんです」
性別を変えても名前を変えなかった理由
その日を振り返り「受け入れてもらえて、本当にありがたかった」と語るくらさん。
「性同一性障害の人の中には『親に認めてもらえない』『親族と縁を切った』という人も多く、僕はとても幸せなケースだと思います。人によっては、戸籍が変わると同時に男性名に変えて、女性だった過去を抹消する人もいる。
でも僕は、父が名づけてくれた『久良良』という名前が好きだし、女性として生きた過去があるから今の僕がいる。性別を変えたときも、名前を変えようとは思いませんでした」
何より「久良良って名前、カッコ可愛いでしょ」とにっこり笑うくらさん。苦悩の末に手に入れた“自分らしさ”は、彼の人生の軸となっている。
そんな彼が、性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変える決断をした理由はただひとつ。愛する人たちと“家族”になるためだった。
「妻のちーさんと出会ったのは、以前、僕が店長を務めていた飲食店。そこでパートとして採用したのが彼女でした。当時、ちーさんは離婚したばかりで、ひとりで娘を育てなければならない状況。ぜひ頑張ってほしいと思い、採用しました」
出会ったころはちさとさんに対して特別な感情を抱いていなかったが、仕事で顔を合わせ、連絡を取り合ううちに惹かれていった。そのころの彼は男性ホルモンを注射しており、顔や身体つきは“男性”そのもの。ちさとさんも「普通に男性だと思っていた」と話す。
「くらさんが性同一性障害であることや、私への好意を告白してくれたときは本当に驚きました。私自身はLGBTQの知識もないし、どう接すればいいのかわからなかったんです。でも、そのとき、すでに彼のことを“人として好き”になっていたし、そばにいたかったので、お付き合いを決めました。
交際を通していろいろなことがわかってきたので、いつの間にか不安もなくなりましたね。くらさんは私よりも女子力が高いんですよ(笑)。娘の楓花ともすぐに打ち解けました」(ちさとさん)