“いつか終わる”標準治療

 “標準治療”というのは、しっかりとした科学的な根拠(エビデンス)があり、専門医たちが何度も話し合って決めた現在考えられる最善の治療法のこと。これはもっとも大事な治療法なので、「標準治療が残っているうちはその治療を受けるべき」と中村先生はいう。

「ただ、再発や転移したがんは治療を続けるうちに『残念ながら標準治療がもう残っていません』と言われることが多いのです。標準治療では打つ手がなくなった場合に残っている選択肢のひとつが“標準治療以外の治療”です」

 標準治療は厚生労働省が認めた保険診療で行えるため、治療費の自己負担は1~3割だが、“標準治療以外の治療”は全額自費だ。

「そういった治療は“保険診療”に対して“自由診療”と呼ばれていますが、がん治療においてもたくさんあります。たとえば、漢方やサプリや食事療法、ヨガといった民間療法に近いものもあれば、標準治療外の放射線治療や抗がん剤などもあります」

 でも、そういった治療はエビデンスがないから効かないイメージがあるが……

「しっかりとしたエビデンスがないから標準治療に認められていないのは確かですが、エビデンスがないからといってやる意味がないとは限りません。特定の人にしか効果がないため標準治療になっていないものもあれば、がんの抑制効果はほとんどないけど生活の質を改善して患者さんの“生きる力”を支援するためにやったほうがいい場合もあります。

 患者や家族が金銭的に許容できる範囲内で行うのは自由であり、厚労省も自由診療の重要性は認識していて、それを支援するための仕組みもできつつあります。ですが、患者が望めば自由に治療法を選べるかというと、そうはいなかないのが現状なのです」

 たとえば、地域のがん拠点病院で抗がん剤治療をしていた患者さんが、「もう打つ手がありません」と言われて院内の緩和ケア科に移り、そこで、子どもが探してきてくれた漢方薬を自費でもいいから試したいと希望しても、主治医には「難しいです」と言われてしまうのだという。

 その理由は“混合診療”ができないから。混合診療というのは、保険診療と自由診療の両方を同じ医療機関で同じ患者に行うこと。緩和ケア科に健康保険を使って入院している以上、そこで漢方薬などの自由診療は原則的に行えないのだ。