『祈りの破片』は、長崎県の光っている空き家が、ピカドンではないかというミステリー仕立てでストーリーが展開する。
「広島に長岡省吾さんという地質学者がいました。長岡さんは、原爆投下直後の広島で、ひとりで瓦や石などの被爆資料を収集していました。それが原爆記念館の礎になったんですよ。彼の功績を忘れたくないと、架空の物語に仕立てました」
場所を長崎に移し、戦後80年を経て、思いは若者に受け継がれていく。
この短編集は、日本各地を舞台に、それぞれの豊かな自然、そこでの人々の暮らしを背景に描かれ、その土地の方言も物語に奥行きを持たせている。
落下した隕石(いんせき)を北海道まで探しにやって来たアマチュア天文学者に、隕石を見つけた女性がウソをつく『星隕(ほしお)つ駅逓(えきてい)』。ウソには切実な理由があった。
『狼犬ダイアリー』は、奈良県吉野に移住してきた女性が、オオカミの遠吠えを聞く。地元の少年と獣医の協力を得て、絶滅したはずのオオカミを追跡する。
「隕石は、1年に何百個って落ちていますが、日本の山の中に落ちたら、まず見つけられません。家の畑に落ちた、倉庫の屋根を突き破ったとかで、見つかることがあるくらいです。星や隕石が大好きなので、書いていて楽しかったです。
動物のテーマは、身近に感じます。オオカミと犬を掛け合わせた狼犬が、山里で飼われていたという伝承があるんです。まだ生きていたらいいなという願望も込め『狼犬ダイアリー』を書きました」