娘を遺して逝けない…もっと時間がほしい
「便秘がひどくてトイレで何分もいきんだ日があったんです。明け方、突然猛烈な腹痛に襲われて救急車で病院に行ったら、危ない状態と言われそのまま小腸の切除手術に。執刀医の先生に『生きて帰れない可能性もある』と言われ、焦りました。娘を見るとバッグを握りしめて涙をポロポロ流している。そんな娘の姿を見て、『絶対にここで死ぬわけにはいかない。生きて帰らないと!』と、母として気合が入りました」
がんが再発してから、脳や肝臓、膵臓への転移、腹膜播種があることが判明。今回発症した消化管穿孔は、腸から内容物が漏れ、死につながる可能性も高く、医師からは緩和ケアや在宅医療などの選択肢も提示された。
しかし、そんな医師の予想とは裏腹に、驚くほどの回復力をみせて3週間で退院、現在は自宅に戻り療養中だ。根治の難しいがんを患い、転移・再発・治療をする中で気づいたのは、「患者は受け身ではダメ」ということ。
「私の場合、定期検診でエックス線やCTは撮っていましたが、急に腹痛が起こるまで腸にがんが広がっていることはわかりませんでした。脳への転移も頭痛があってから初めてわかりました。
だから自分のほうから、例えば『1年たったのでPET検査をしてもらえませんか』などと、積極的に先生にお願いしてみることが大事。後悔をしないために、患者側も受け身でいるのではなく、自分の命は自分で守る意識を持つことが大切だと感じています」
がん経験者として、同世代の女性にもっとも伝えたいのは、「検診の重要性」と話す。
「がんは早期発見が大事といわれますが、そのとおりだと思います。私は、しこりを見つけるまで乳がん検診に行っていませんでした。“もっと早く見つかっていたら……”という思いは今でもあります。早期なら治療も負担が少ない可能性が高いですし、再発せずに過ごせるほうがいいに決まってる。だから年1回の乳がん検診は女性なら必ず行ってほしいです」
26歳で始めた和太鼓パフォーマンス。まもなく芸歴は30年を迎える。目標は、娘と共に再び舞台に立つことだ。
「以前のような激しいパフォーマンスは難しいですが、体力が戻ったら、仕事にも復帰したい。複数の転移はありますが、新しい治療法が出てきているので、希望は捨てていません。そのためにも今後、どのような選択肢があるかを先生と相談して、何とか治療をしながら生きていく方法を見つけたいと思っています。娘のためにもあと10年は元気に生きたいですね」
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友永綾美さん●1969年生まれ、名古屋市出身。女性和楽器アーティスト集団『和楽-WAGAKU-』代表。娘のMINAや共演アーティストと共に、和太鼓や篠笛、各種打楽器の演奏、舞などのパフォーマンスを行う。
取材・文/釼持陽子