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ー 乳房再建をいまだに「美容整形」と捉える人は少なくない
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ー 選択肢のひとつであることを事前に知っておいてもらえたら

 

「乳房再建」とは、乳がん手術によって失われた乳房の形を元に近づける手術のこと。「温泉にも行けるし、喪失感もない。やってよかったです」そう語る女性は、あとに続く患者たちの参考になればと自らモデルにもなった。「病気になっても自分らしく」そのための発信を続けている。

乳房再建をいまだに「美容整形」と捉える人は少なくない

 真水美佳さんは40代前半に自治体で受けた乳がん検診でひっかかり、乳腺外科の専門医に診てもらったところ「左胸にしこりがある」と言われたという。しかし、超音波やマンモグラフィーでは映らない程度であり、5年間、毎年欠かさず検診を受け続けた。

変化がないので、医師の勘違いじゃないのか、と思っていたところ、16年前の48歳のとき、ついに会社の検診でも要精密検査に。その結果、左胸に2.5cm、今まで何もなかったはずの右胸にも3mmと7mmのがんが見つかったんです」(真水さん、以下同)

 医師から「両側乳がん」で左側は温存し、右側は全摘したほうがいいと告げられる。ただ、身体にメスを入れることには大きな抵抗があった。

「叔母も乳がん経験者で片胸がなかったんです。小学校低学年のころ一緒にお風呂に入ったとき、あばらの浮いた平らな胸を見てビックリしたのを覚えています」

 ショックで愕然としつつ、なぜがんが小さいほうの胸を全摘するのかにも納得がいかなかった。

誤診も疑い、セカンドとサードオピニオンを受けました

 2008年1月末にサードオピニオンの医師から、病状や手術内容などを詳しく説明され、やっと自分は乳がんなんだとのみ込めたという。

 最初に診断を受けた病院の主治医からは、「この病院では乳房再建をしていません。再建したいなら自分で探してください。紹介状はいくらでも書きます」と告げられる。

当時はまだ乳房再建はメジャーではなくて。このとき初めてその言葉を知り、『その手があるのか!』と、教えてくれた先生に感謝しましたね

 そこで改めて病院探しを開始するも、そのころは体験者ブログから得られるわずかな情報しかなかった。

友人からおすすめされた病院も、予約を取るのすら困難で。手術する病院が全然決まらず“手術難民”になってしまい、心がポッキリ折れて。一時は『もうどうでもいい。このまま天寿を全うしようか』と考えたり、完全にやさぐれていました(笑)

 がん告知から4か月ほどが過ぎ、進行も気になったため、乳房切除術と再建手術を別々の病院でやろうと気持ちを新たにする。ただ、切除方法によっては再建手術が限られるケースもあることがわかってきたが、詳しい情報は得られなかった。

そこで再建をやっている病院で、どう胸を切除すれば再建できるのかを聞き、その内容を当時の主治医に伝えようと思ったんです。今、考えればずうずうしいのですが、そのときは人生最大の行動力で。とにかく胸を残したい一心でしたね

 形成外科医に話を聞きに行ったところ、乳腺外科医にたまたま診てもらえることに。

そうしたら、2つの手術を一度に行う“同時再建”をしてもらえることが決まったんです

 乳房の再建は自分の組織を使う「自家組織」と、「インプラント(人工物)」を挿入する方法がある。真水さんは、腹部の脂肪などを胸に移植する「腹部穿通枝皮弁」を行うことに。

当時はインプラントが保険適用ではなかったのもありますが、再建を担当する形成外科の先生が自家組織による再建法で有名な方だったので、迷いはありませんでした

真水美佳さん
真水美佳さん

 手術直後は切除したお腹の痛みに苦しんだ。腕のしびれやお腹のツッパリ感はあるが、普通に生きていてもいろいろある年代……少々の不具合があって当たり前、と深く考えはしなかった。

再建はしてもしなくてもいいものですが、私にとっては歯が抜けたら差し歯をするのと同じ感覚。同時再建だったため、『胸を失った』という喪失感もなかったですし、傷痕も目立たず、温泉にも気兼ねなく入れるので、やってよかったと思っています

 再建の費用は高額療養費制度を利用して、10万円未満に。

乳房を全摘する場合は再建手術が保険適用となりますが、知らない人がまだまだたくさんいるんです。また、片胸がないと身体の左右のバランスが崩れ、姿勢が悪くなり、腰痛や肩こりなどに悩まされることも多いそうです。下着着用時、補正パッドをつける手間もいりません

 乳房再建をいまだに「お金持ちが受ける特別なもの」や「美容整形」と捉える人は少なくない。普通に生活するための当たり前のものを取り戻す、治療のひとつだと知ってほしい、と真水さんは語る。