間違いが、ふんわりと解決していく
いざ店が開いてみると、目の前にはすごい光景が広がりました。水は2個出すのは普通、サラダにはスプーン、ホットコーヒーにはストローがついています。
そして、注文を間違わないようにと僕たちが結構苦労して作ったオーダー表なんですが……それをお客さんに渡して書かせてるじゃないですか。すごいぞ、それなら間違わないね!と思ったら、ハンバーグを頼んだお客さんに餃子を出してるよ……。
さらに、レストランの入り口に立てかけられた『注文をまちがえる料理店』の看板を見て、「注文を間違えるなんてひどいレストランだね」と笑い飛ばすおばあちゃん。いや、いや、それはあなたが……というツッコミをぐっとこらえました。
カオスです。はっきり言って、むちゃくちゃなんです。それなのに、お客さんがみんな楽しそう。注文を取るのかなと思ったら、昔話に花を咲かせてしまうおばあちゃんとそのまま和やかに談笑したり、間違った料理が出てきても、お客さん同士で融通しあったり、誰一人として苛立ったり、怒ったりする人がいないのです。
あちこちで、たくさんのコミュニケーションが生まれ、なんとなく間違っていたはずのことがふんわり解決していく。これは面白いなぁと思いました。
たった2日間しかオープンしないお店。認知症を抱える6人のホールスタッフと80人のお客様とで作り上げた『注文をまちがえる料理店』でしたが、そこからたくさんの物語が生まれました。
たとえば、元美容師のヨシ子さんは74歳。きゅっと結んだ髪の毛に大きなリボンがトレードマークのヨシ子さんは、2日間、大活躍でした。「疲れませんか?」と聞くと「これくらいで疲れてどうするの。私は立ち仕事には慣れているのよ」と叱られてしまうくらい元気いっぱいでした。
かつては都内の有名な結婚式場で花嫁さんの髪を結う仕事もされていたそうです。一日に何件もこなしていたという当時のことを思い出して、
「花嫁さんには一生に一度のことでしょう。緊張するし、大変な仕事だけど、とても好きだったの。きれいになったと喜んでもらえることが、私はすごく好きだったのよ」
と語ってくれました。料理店でのヨシ子さんの働きぶりにはみんなが目を見張りました。もちろん間違いはいろいろありました。それでも、ヨシ子さんの身体からは、働いていることへの誇りと喜びが満ち溢れているように見えました。