強い覚悟に「あっぱれ」
東京キャットガーディアンには現在20名のスタッフがいる。里親になった縁で採用されたスタッフも多い。
最近、宅地建物取引主任者の資格取得者も採用した。
青木仁志さん(50)は、建設会社に勤務していたが、昨年10月に入社した。
「実は僕もここの里親なんです。自分の宅建の資格を猫に関する仕事で活かせるというのはやりがいを感じますね」
鑓水あかねさん(33)も宅建取得者で、昨年の春まで不動産業者に勤めていた。
「もともと猫好きで、ここの『ねこ活』というボランティアビギナーの講座に参加しました。雰囲気も気に入ったし、山本さんのさっぱりとした性格にも惹かれて入社しました」
保護猫カフェと同じビルの1階で、猫グッズを扱うリサイクルショップの運営を任される仁村陽子さん(47)は、
「山本さんは、常に人の考えの先を読む頭の回転が速い人ですね。ただそのぶん、思ったことがすぐ口から出ちゃうところもあるかな(笑)」
前出の松村さんは、山本さんをこう評価する。
「彼女はパワフルな行動派で、猫の保護に人生のほとんどを捧げている凄みがありますね。また、いい意味で『(猫の保護)原理主義者』。保護を謳っていても実際は猫のためにならないことをする同業者や、一般の飼い主に対しても厳しく対応するので、誤解もされやすく敵も少なくない。
猫を助ける目的のためなら手段を選ばない剛腕の持ち主ゆえに、商業主義だと批判されることもありますが、できるだけたくさんの猫を助けるために収益を上げて保護事業に再投資して何が悪い? という強い覚悟があってあっぱれだと思います」
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面談が終わった家族が、「わが家の猫」を見つけようと何度もケージの前を行きつ戻りつしていた。東京都千代田区に住む加藤さん一家は、夫婦と姉妹の4人家族。
「以前は、サルを飼っていたんですが、最近亡くなってしまって。それで娘たちが“猫が欲しい”と言い出しましてね」と奥様の由佳さん。
結局、加藤さん家族はちょっとずんぐりした薄茶の成猫に決めた。
「子猫は可愛いんだけど、やはり手がかかりますからね。娘たちのためにも、このくらいの猫がいいんでしょうね」
帰り際、「家族が増えるんだね」と姉妹に声をかけると、うれしそうにはにかんだ。
何度経験しても、このときばかりは山本さんの親心が疼く。
「譲渡の瞬間は“ああ、行っちゃうんだ”と思います。行ってもらわないと困るけど(笑)。でも、私たちがこの活動をやっていなければ年間700頭の猫が死んでいることになる。救えない命のことを思えば、生きて新しいご家庭に行ってくれてよかったと気持ちをおさめられます」
けっして楽しいだけの仕事ではないのだ。
「やりがいのある仕事ですね」
そう投げかけると、こんな答えが返ってきた。
「やりがいと言えるほど軽くないんです。助けられないこともありますしね。毎回、譲渡の瞬間の寂しさもある。そういったつらさを私たちはグループみんなで支え合って耐えているんですよ」
山本さんの次の夢は、町のコミュニティーの核となる「飲食店」を東京中に作ること。
地域の情報が集まる場を各駅に1つずつ作る構想─もちろん、東京中の地域猫を救うための秘策である。彼女なら成し遂げそうな気がする。
取材・文/小泉カツミ
撮影/齋藤周造
こいずみかつみ ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』(文藝春秋)がある