支援はまだ1%にも満たない

 松島さんは、現在、妻と小学1年生の長男、4歳になる双子の娘たち、そして母親と暮らしている。

「妻と出会ったのは、アイスタイル時代。彼女が新入社員のとき、トレーナーを担当したことがありました。僧侶になる修行が終わらないと、その先の覚悟が決められないので、お坊さんになってから結婚しました。8歳下の彼女に、僕も家族も支えられています」

小学1年の長男と。「お坊さんになんねんで」と、つい口にしてしまうと言うが、息子も回り道をするかも?
小学1年の長男と。「お坊さんになんねんで」と、つい口にしてしまうと言うが、息子も回り道をするかも?
【写真】松島さん“断髪式”の様子、お寺に届けられたお菓子の数々ほか

 子どもたちも時折、発送会の手伝いをしてくれるという。

 IT業界とお寺では世界があまりにも違うように思えるが、「共通点はある」と松島さん。

「インターネットって、モノと情報をつなげたり、人と人をつなげたり、課題を解決したり、付加価値を見いだしたりというのが仕組みの原点ですよね。一方のお寺も、実は同じように苦しみから救ってくれる仏様と、生活の中で苦しみを感じている人々をつなげる、ある意味、何かをつなげて課題を解決する、新しい可能性を見いだしていく場所。だから、僕自身、何も変わっていないと思える。お経を読んだりする、そういう行為はぜんぜん違うけど、すごく一緒だなと思うんですよ」

『おてらおやつクラブ』は、'18年度の「グッドデザイン大賞」を受賞。活動の意義に加え「既存の組織、人、もの、習慣をつなぎ直すだけで機能する仕組みの美しさ」が評価されたのだ。受賞によって思わぬ影響もあった。

「東京でITに従事していた時期、住職になってからと、出会った時期によって僕の印象が違う。いまだに、“ホントにお坊さんなの?”と信じてくれない東京の元同僚もいます。でも大賞を受賞したことで、それぞれが知っている僕をつなげて想像してもらういい機会になりました」

 ネット業界での経験、そして僧侶だからできること─2つのキャリアが実を結び、活動は着々と成果を挙げているように見えるが、「そうじゃない」と松島さんは言う。

「“すごく増えましたね”と言われるんですが、ぜんぜん足りてない。1200のお寺が参加する活動ということで“完成している”と思われるけれど、全国には7万7000もお寺がある。280万人の貧困に苦しむ子どもたちの中の1%にも満たない支援にすぎないんです。それをどうやって伝えていこうか。まだまだこれからなんですよ」

 今後は、フードバンク事業も視野に入れているという。

「フードバンクは、フードロスを削減するのが目的。『おてらおやつクラブ』の場合は、仏様やご先祖様への思いを込めたお供えという違いがあります。でも、まだまだ足りない状況からすると、今後はフードバンク事業を始める可能性もありますね」

 高校中退、お笑い、インターネット、そしてようやく辿り着いた仏教の道─。

「回り道にはめちゃめちゃ意味がありました。仏教の高校を卒業してお坊さんになってたら、この活動は絶対してなかったですね」

 最近、6歳の息子に「お坊さんになんねんで」と言ってしまう自分がいると松島さんは笑う。

「自分でも矛盾してるなと思うんだけど(笑)。彼も“なんでならなあかんねん”と思っているでしょうね。ただ、僕はお坊さんというのはどういう存在か、ということをこの活動を通して示しているつもり。

 息子じゃなくても、今、支援している子どもたちの中からお坊さんになりたいという子がいたら、それほどうれしいことはない。そのために種まきをしている─、活動はそんな思いの表れでもあるんですよ」

発送会の前のお勤め。参加者も仏様に手を合わせる
発送会の前のお勤め。参加者も仏様に手を合わせる

取材・文/小泉カツミ(こいずみかつみ)◎ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』がある