「精神的障害が事件に大きく関与」
精神科医の鑑定から

 犯行に及んだ経緯に、一審の代理人を務めた弁護士は、

「被告は対人関係に障害のある広汎性発達障害(パーソナリティー障害と軽度の発達障害)があり、犯行に強い影響を与えた」

「学校などで受けたいじめが人格形成に影響した」

 という、趣旨の主張を法廷でしている。彼を診断した精神科医も「障害の特性の衝動性が表れた結果だ」と説明した。だが、裁判所は一審判決で、

犯行を決意したのは障害の影響とみるべきでない

 という理由で死刑判決を言い渡している。

 一審の公判中、土屋死刑囚の精神鑑定医が残した印象的な言葉がある。その様子を報じた朝日新聞から一部下記に抜粋する。初公判から約1週間後の裁判で、

《裁判員から再犯の可能性を問われると、(中略)「被告は元々、凶暴でなく、環境を整えると事件は起こしづらくなる可能性はある。(中略)本人が努力し、周りのサポートがあって、初めて(更生が)成立する」》

 精神科医がいう“彼はもともと凶暴でない”という、趣旨の供述が本当であれば、彼はなぜ凶悪な事件を引き起こしたのか。私の興味は再び、“なぜ事件を起こしたのか”に向き始める。彼の言動の根底に潜むものは一体何なのか。この問いに対する答えを求めて、私は彼との関わりのある人物を追っていくことを続けていこうと思う。

あなたも加害者になりうるかもしれない

 土屋死刑囚の置かれた環境や、強いられた対人関係を事件の動機とするとき、犯罪の理由とそれとは関係ないという意見を耳にする。

 もちろん、その声は受け入れなくてはならないし、事実、そうかもしれない。罪のない尊い命を奪ったという事実は決して、一生をかけても償えるものではない。自らの不運を、殺人を用いて社会に表したことの罪の重さは計り知れない。

 例えば少し見方を変えて、前橋市高齢者連続殺人事件において、被害者も加害者も生まないという視点に立ったとき、『なぜやってしまったのか』という深層心理に関心をもち、『なぜ防ぐことができなかったのか』を知る義務があると強く思うのである。これから先の未来、悲しい事件が起きないために私たちは共有し、その記録を残さなければならない。ここで改めて読者へ問いかけたい。

 あなたは死刑制度に賛成か反対か──。

 この問いを向けられたら、あなたは何と答えるだろうか。死刑制度に関してあまりにも情報が少なく、判断材料が足りない中で、答えは「賛成」「反対」のたった2つしか与えられないのだろうか。もっと知り、考えなければならないことがあるのではないだろうか。心の中で膨らみ続ける「なぜ」の声に、私は耳を傾けたい。そして、少し立ち止まって考えてみてほしい。

 日本で毎年のように行われている死刑の執行。日本はこの制度を支持し、私たちは国民の一人として、間接的に支えている。人の命を左右しているのが私たちなのであれば、この制度について考えなければならない。死刑囚の命に直接、手は下さないにしろ、無知や沈黙や傍観は、ときに“加害者”にもなりうるのだから。

PROFILE
●河内千鶴(かわち・ちづる)●ライター。永山子ども基金、TOKYO1351メンバー。 これまでに地球5周、世界50か国以上を旅しながら、さまざまな社会問題を目のあたりにする。2013年から死刑囚の取材を始め、発信を続ける。連載に『死刑囚からの手紙』週刊金曜日。