受診控えで死者数が減少する事例も
「副作用の症状は頭痛や倦怠感など、さまざま。最悪の場合、死に至ることもあります。トロント大学の研究報告によると、アメリカでは、処方薬の副作用で年間約10万6000人が死亡しています。ちなみに、アメリカでは処方薬は1人4剤までというルールです。それでも、これだけの死亡数が報告されているのです」
日本では、処方薬の副作用による死者数の統計はない。その一方で、気になるデータがある。厚生労働省の人口動態統計によると、新型コロナウイルスが猛威をふるう中、2020年度の国内の死者数が11年ぶりに前年を下回ったというのだ。
「約15年前、財政破綻した夕張市でも似たような現象が起きました。夕張の市立病院がなくなり、高齢者を中心とした患者たちは病院を利用するとなると市外へ行くしかありませんでした。通院の機会が減るなか、不思議なことに夕張市民の死亡者数は減少したのです。コロナ禍の“受診控え”が目立つ今と、似た状況だと感じます。過度な医療や過剰な服薬は、必ずしも高齢者の健康にとってプラスとはいえないのです」
そもそも、なぜ高齢者の多剤服用は危険なのか。
「薬を飲むと、その成分は肝臓で分解・解毒され、排出されます。しかし高齢者は加齢により肝機能や腎機能が低下しているため、若者に比べて薬の成分が体内に長時間とどまりやすくなっています。ただでさえ薬の影響を受けやすいのに、それが多剤になれば、副作用のリスクが大きくなるのは当然です」
加齢によって見られる、記憶障害やふらつきなどの症状も、実は薬の副作用で起きている場合があるという。
「これを『薬剤起因性老年症候群』といいます。便秘や食欲低下などの比較的軽いものから、せん妄、抑うつ、排尿障害まで、さまざまな症状が見られます」
この問題に対し、厚生労働省は2019年に『高齢者の医薬品適正使用の指針』を発表した。多剤服用の中でも特に害のあるものを「ポリファーマシー」と呼び、高血圧治療薬や糖尿病治療薬、認知症治療薬などジャンル別に、具体的な薬剤名を挙げて注意を促している。
「血圧を下げる降圧薬は、10年、20年と飲み続けている人も珍しくありません。しかし、厚労省の指針では、記憶障害やせん妄など脳への影響が指摘されています。降圧薬は血液循環の圧力を弱める作用があるため、脳へ届ける血液量が減って酸欠状態となり、このような副作用が起こりやすくなるのです。因果関係はまだ不明ですが、長期の服用が認知症を引き起こすという研究もあります」
日本では、約4000万人が高血圧とされ、降圧薬の市場規模だけでも1兆円に上るといわれている。
「診断や処方せんの基準となる血圧値の分類は、日本高血圧学会が示す『高血圧治療ガイドライン』で定められています。ただし、男女の別や身長、体重などの個体差は考慮されていないのです」
基準値から少しでもはずれたらすぐに薬を飲む“悪習”は、高血圧症に限らない。
「コレステロールや中性脂肪の値が高いと、心疾患のリスクが高まるといわれています。ですが、これらの値を下げる脂質異常症治療薬についても、厚労省が注意喚起しています。特に75歳以上の後期高齢者においては、筋肉痛や消化器症状、糖尿病の副作用が指摘されています。なかには、筋力が低下し、四肢がまひする深刻な副作用が生じたケースもあったんです」