日常生活が破綻するほどの副作用
30年以上にもわたって終末期のがん患者に寄り添ってきた山崎先生だが、2018年9月に、自身にもがんがあることが明らかになる。
「大腸がんでした。手術をし、術後の病理検査でステージ3の進行がんであることが判明したんです」
担当医からは「5年生存率は70%」と説明を受けた。そして再発予防目的のために、術後に抗がん剤治療を受ければ、生存率は80%になるとも言われたという。
「抗がん剤の功罪は知っていたので、その提案には一瞬、ためらいました。でも、多くの患者さんが体験している副作用を自らも体験すべきだと思い、試してみることにしたんです」
まず始まったのが食欲低下と慢性的な吐き気。そして下痢。
「いちばん悩まされたのが手足症候群でした。手足の皮膚が黒ずみ、ひび割れてくるんです。丹念にクリームを塗っても焼け石に水。ひび割れからは出血も始まり、絆創膏を貼ってなんとか仕事を続けたほどです」
さらには指先にしびれも出始め、まさに教科書どおりの副作用の連続だった。それでもなんとか治療をやり抜き、半年後、予定されていたCT検査を受けた。
自分らしく生きることを選択
「そこで主治医から言われた言葉は、“両側の肺に多発転移があります”。ステージ4、つまりがんの最終段階に進行していたのです」
強い副作用に耐えたにもかかわらず、がんは進行していたのだ。
担当医からは、さらなる抗がん剤治療を提案されたが、当然、前向きな気持ちにはなれない。ステージ4の固形がん(大腸がんや肺がんなどに塊を作るがん)になってしまったら、治癒は難しい。
抗がん剤治療を受けて身体が壊れるほどの副作用に耐えたとしても、延命でしかない。
「医師の側からすれば、ステージ4となったら抗がん剤治療をしても治らないことはわかっています。けれども今の医療では選択肢はそれしかない」
治らないとわかっていても、「治癒を目指して頑張りましょう」としか言えないのだ。
「限られた命。痛みと苦痛に耐えて終えるより、自分らしく悔いなく生きたいと思いました。抗がん剤治療なしで病状が進行していった場合に起こりうる心身の苦痛は、適切な緩和ケアがあれば対処可能なことはわかっています。
考えあぐねた結果、がんの自然経過に委ねることにしたんです」