転移したら手術できない
完治をめざすがん患者にとって、転移や再発という言葉はズシリと重い。だが、たとえ転移や再発が判明しても「諦めることはない」と大場先生は言う。それほど、がん治療の進歩はめざましい。
「いま日本人女性のがん死因トップは大腸がんですが、従来はステージ4で肝臓や肺などに転移があると、多くの医者が治癒は難しいとして漫然と抗がん剤治療や緩和ケアをすすめてきました。ですが、手術による転移巣の切除と有効な抗がん剤治療をうまく組み合わせることで治せる可能性はあります。
重要なのは、高度な技能を持った肝臓外科医や呼吸器外科医と連携をとることです。転移しても再発しても、手術を軸とした治療によって、治癒または生存期間を大きく延ばすことは十分可能。もちろんケース・バイ・ケースですが、決してステージ4イコール末期がんではなく、がんによっては治せるチャンスはいくらでもあるのです」
免疫療法には副作用がない
「がん難民になった人が最も引き寄せられてしまうニセ情報が、免疫療法に関するものです」と大場先生。
がんの免疫療法とはがん治療の4本目の柱とされ、リンパ球に代表される免疫の力でがん細胞を攻撃する治療法のこと。現在、免疫療法には治療効果が科学的に認められて保険診療で受けられるものと、それ以外の自由診療のものがある。大場先生が「ニセ」と断罪する免疫療法はクリニックで広く展開されている自由診療のものだ。
保険診療で受けられる免疫療法は「免疫チェックポイント阻害薬」という薬で治療を行う。この薬の開発に大きく貢献したのが2018年にノーベル生理学・医学賞をとった本庶佑医学博士で、商品名「オプジーボ」が有名だが、それ以外にも数種類の免疫チェックポイント阻害薬が各種がん治療で保険診療が認められている。
保険診療が認められた免疫チェックポイント阻害薬
■ニボルマブ(オプジーボ)
■ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
■イピリムマブ(ヤーボイ)
■デュルバルマブ(イミフィンジ)
■アテゾリズマブ(テセントリク)
■アベルマブ(バベンチオ)
※( )内は商品名
言い換えれば、今のところ、すべてのがん、すべての患者さんに効く免疫チェックポイント阻害薬などはなく、しかも、人によっては命にかかわる強い副作用が出ることもわかっている。
「だからこそ逆に、『副作用がない』『身体にやさしい』などと堂々と宣伝している免疫療法は、残念ながら現時点では科学的に無理があります。取り扱っている医師らもよく見ると、がん免疫療法の素人ばかりで、僕に言わせればインチキビジネスでしかありません。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に免疫が働かないようにしているブレーキを外すことでリンパ球の攻撃が作動するのですが、巷のクリニックで行われている免疫細胞療法は、リンパ球自体の攻撃性を高めるアクセル方法がとられています。これはすでに20年以上前から試されている古典的な方法で、効果がないとされています。とてもがん免疫療法として成り立っているとは思えません」