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ー 追い込まれ、誰の言葉も耳に入らず
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ー 全摘の後遺症には今も苦しみ続ける

「胃を全摘した際に、周辺のリンパにも転移が見つかり切除しています。その影響で体温調節ができなくなって。かなり冷え性なので夏でもそんなに汗が出なくて。メイクが崩れなくて不思議がられます(笑)」

追い込まれ、誰の言葉も耳に入らず

 と、笑顔で話す浜木真紀子さん(49)。その姿はがんサバイバーであることを微塵も感じさせないが、病気が見つかったつらい当時を振り返る。

「私の場合は自覚症状が全然ありませんでした。病院を受診したのは、ちょっと胃がキリキリすると感じたからですが、当時は営業職だったのでストレスからくる胃炎だと思っていました。

 家族をがんで亡くした経験があったので、がんは怖いものという意識もあり、症状があったら検査は恐怖で受けられなかったんじゃないかって思います」

 診断結果は胃がんのステージ2。内臓の摘出手術が必要なほど、進行していた。

がんがわかったときは当然ショックでした。どうやって家に帰ったかも覚えていないくらい。部屋を出られず、食事をとることもできず、お風呂にも入れないくらい落ち込んで。誰の言葉も耳に入らないほど精神的に追い込まれていました」

 がんにかかる以前の浜木さんの人生は順風満帆そのもの。華やかな美貌でミス富山に選ばれ、23歳で結婚。上場企業で働きながら子どもにも恵まれ、仕事も人生もフルに楽しんでいた。

「当時は38歳。独立したくて仕事に邁進(まいしん)していた時期でしたから、家庭を顧みない自分への罰が当たったのだとも思いました。神様はどうして私をこんな目にあわせたのだろうとも思いましたし。楽に死ぬことばかり考えてしまって。

 今振り返れば、早期のタイミングで検査を受けて、たまたまがんを見つけられるなんて、すごい巡り合わせだと感じるんですが、当時はとてもそんなふうには思えませんでした」

 腹部を2か所切る手術を提案された。傷が残る摘出手術に前向きになれず、セカンドオピニオンで東京の専門病院に転院を決意する。

「お医者さまと会って、傷の目立たない手術が受けられることになった。そのときは未来が見えたように思えて一気に気持ちが変わりました。お化粧しようと思えるようになったし、病院に何を着て行こうかとかも思えるようになりました」

 しかし、手術は容易なものではなく、術後のリハビリも想像を絶するつらさだったという。

「私の場合はお腹を切らずに、おへそを1回開いて、内臓を全部出して胃を取ってまた内臓を体内に戻すという手術をしたんです。

 術後も内臓がそれぞれの位置に戻るために、体内で動くんですけど、痛み止めがいくつあっても足りないくらい全身が痛くて。さらに癒着を防ぐために身体を動かさなきゃいけなかったんです」

53kgあった体重が35kgになり、免疫力も低下。胃を全摘した翌日から痛みと闘いリハビリを行った
53kgあった体重が35kgになり、免疫力も低下。胃を全摘した翌日から痛みと闘いリハビリを行った