ここからは身体に負担をかけない枕の選び方を紹介する。
「合わない枕は不調を招く」
「正しい枕は治療道具としても有益です」
そう話すのは整形外科医として枕外来も開設している山田朱織先生。
「身体に合わない枕は、肩こりや頭痛、手のしびれなどの不調を招きます。それらの症状があったときに、薬や注射など副作用や痛みを伴う治療をしなくても、身体に合った枕を使うことで睡眠姿勢が改善し、症状がよくなる方がいます。痛みがなくなると眠りも深くなり身体全体が健康になっていきます」(山田先生、以下同)
約40年にわたり、整形外科医であった父とともに枕と睡眠を研究してきた山田先生。高い枕が脳卒中のリスクも高めると知って、さらに枕の大切さを実感。
「整形外科の観点から、枕は骨や関節、神経へ影響するものと考えてきましたが、殿様枕症候群は“血管”に与えるダメージも大きいことがわかり、枕の身体への影響力に驚いています」と話す。
先生が考える身体に理想的な枕には3つの条件があるという。
「1つは、体格に合った高さ。高すぎる枕もよくありませんが、低すぎる枕もよくありません。あおむけで寝たときに横から見て首が15度の角度で、横向きで寝たときに身体の軸が布団に対して平行になっている状態がベストです」
頭を乗せたときに男性75ミリ、女性60ミリの高さが一般的な平均値だというが、あくまで目安として、5ミリ単位で自分に合った高さを調整するのが望ましい。
「2つ目は適度な硬さ。頭を乗せて沈み込まない硬さがあることが大事。2リットルのペットボトルを乗せて5ミリ以上大きく沈まなければ大丈夫です」
3つ目は平らな形。
「体液の循環や体温調節、姿勢のリセットなどのため、人はひと晩で何十回も寝返りを打ちますが、それにはフラットな構造であることが重要です」
高すぎや低すぎのほかに、今使っている枕が自分に合っているか確認する目安も教えてもらった。
下の項目にチェックが多い人ほど枕が合っていない可能性が高い。睡眠は人生の3分の1を占めるからこそ、その寝姿勢が重要。理想の枕で健康的な人生を歩みたい。
その枕合っていないかも! チェックシート
・目覚めた時に枕が頭から離れている(ズレている、落ちている
・枕や頭の下に手を入れて寝ている、腕を上げて寝ている
・目が覚めるとうつぶせで寝ている
・朝起きると手や腕にしびれがある、首や肩が痛い
・熟睡感がない
・寝返りを打つと目が覚めてしまう
山田先生考案 玄関マット枕の作り方
高さ、形、硬さと3条件を満たす市販の枕を探すことは難しいと山田先生。「世の中にはありとあらゆる硬さ、形の枕が販売されていますが、なかなか合うものを探すのは難しく、なんだか寝起きがしっくりこないという枕難民も少なくないはず。そこで手作り枕をオススメしています。玄関マットかキッチンマットを折って高さ3~4センチの土台を作り、その上に折ったタオルやタオルケットを重ねればOKです」
1 裏地がついた硬めの玄関マット(50×90センチ程度)を3つに折る
2 その上にタオルケットを折って重ねる。タオルケットの畳み具合を調整して自分の体格に合った高さにする
江頭柊平先生●脳神経内科医。国立循環器病研究センターの研究チームの一員として、殿様枕症候群による脳卒中のリスクを提唱。現在、京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 博士後期課程。
山田朱織先生●16号整形外科院長。山田朱織枕研究所 代表取締役。長年、臨床研究に基づいた枕と睡眠分野の研究を行う。著書に『首姿勢を変えると痛みが消える』(フォレスト出版)など多数。
取材・文/荒木睦美