特別な“抗がん剤の使い方”が奏功

 善本さんが受けた治療のなかで特に注目なのが一般的ではない抗がん剤の使い方だ。本来、抗がん剤は全身のがん細胞を攻撃するために使われるのが一般的だが、善本さんの場合は直接がん病巣に流し込んで攻撃したのだ。

「これは動脈化学塞栓療法という治療法で、血管内に細いチューブを入れてがん病巣に直接抗がん剤を流し込み、そのあとがん病巣につながる動脈を塞ぐというもの。濃度の濃い抗がん剤を長い時間、病巣に滞留させることで、高い効果を得られる場合があるようです」

 この治療法はもともと肝臓がんの治療として開発されたもの。肝臓がんでは一般的な治療法だが、それ以外のがんでも一定の効果があり、保険診療でできる場合があるという。この抗がん剤の使い方によって善本さんは根治への足がかりをつかむことができたのだ。

 現在は自分の闘病体験を少しでも役立てたいと、がん患者をサポートするNPO法人『スマイルステーション』を立ち上げた善本さん。もう少し早く病気に気づいていればと悔やむこともあるという。

「いまから思えば、性交時の異変について我慢せずにパートナーと話していればよかったなと思います。出血や痛みを伝えるとパートナーの性能力を否定することになり、パートナーが性行為に自信を持てなくなってしまうかも、と思ってしまったんです。でも、異変は命に関わることもあるので、遠慮せずにパートナーと話してほしいと思います」

 がんは早期に発見できれば、その分、助かる見込みも増える。気になる症状がある場合は早めに受診したい。

 また、がんが再発や転移してもあきらめないでほしいと善本さん。

「医者から手の施しようがないと言われても、まだ自分のがんに有効な治療はないか探してみる価値はあると思います。私はそれで実際に助かりましたし、10年たったいまも再発することなく、ぴんぴんしていますから」

 社会の高齢化に伴い、がん患者は増え続けている。がんになっても早く見つけて対処することで安心して暮らせたり、たとえがんが進行しても少しでも長生きできる社会になってほしいーー。

善本考香さん●1971年、山口県生まれ。NPO法人『スマイルステーション』代表理事。共著に『このまま死んでる場合じゃない! がん生存率0%から「治ったわけ」「治せるわけ」』(講談社)。