目次
Page 1
ー 下血してジストが判明「胃なし人」になる
Page 2
ー 胃液の逆流で眠れない。妻にあたったことも
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ー 肝臓に転移、抗がん剤を飲んでいたのに
Page 4
ー 「人生おもしろおかしく生きたらええやん」

「医者なのになぜ気づかなかったのかと言われると、身が縮む思いです。私は検査が苦手。嫌いやからと胃カメラも2~3年受けていませんでした。『がん検診や人間ドックをやっておけば』というのが、私の悔いというか反省です」

下血してジストが判明「胃なし人」になる

 そう話すのは、ホスピス緩和ケア医として終末期がん患者を多く診ていた大橋洋平先生。医療の世界は体力勝負のため、人一倍よく食べるが、運動習慣はゼロ。以前の体重は100kgを超えていた。

「今思えばストレスもあったんでしょうね。当直も多い常勤で働くのは体力的にきつくなり、50歳を越えてから退職し、非常勤になりました」

 医師生活30周年の2018年、6月4日の早朝、下血したことから大橋先生のがん闘病はスタートする。

「トイレに駆け込むと、鉄サビ臭のする大量の黒い下痢が出た。そのあとも続きました。『出血であってほしくない』と思う反面、かつて消化器内科をしていたこともあったので、胃から出血していることが多い、さらにがんである可能性が高いと思いました」

 翌朝、妻のあかねさんに車を運転してもらい、自身が働く海南病院に駆け込んだ。

 主治医から伝えられた胃カメラの結果は、おそらく消化管間質腫瘍「ジスト」とのことだった。

 ジストとは10万人に1人が発症するまれな悪性腫瘍。胃カメラやエコー、CTで発見される。また、胃がんは胃の内側にできるが、ジストは胃の壁伝いや胃壁の裏に広がる。

「恥ずかしながらジストにつての知識は乏しく、インターネットで検索して知りました。いわゆる胃がんと比べ、ほかの組織やリンパ節に転移することが少ないし、治療法もある。うれしくはないけれど、それは私にとってありがたいことでした」

 入院から11日後、手術で胃のほとんどを切除した。

「腫瘍の大きさが直径10cmもあったため、手術痕は約30cmと大きかったんです。術後は激痛が走り、高熱が出ました」

 2週間ほどで退院して「胃なし人」生活が始まった。体力をすぐ戻すのは難しいが、なんとかなると思っていた。

「解約寸前だったがん保険があったから、入院中の費用はなんとかなった。あれがなかったらとゾッとします。しかし、非常勤なので働かないと収入がない。元気になるためには少しでも食べなければと変に力が入っていました」