ウィズコロナ時代、応援消費の盛り上がりをきっかけに「エシカル消費も定着するのではないか」と蟹江教授は予想する。
「外出自粛にしても応援消費にしても、ひとりひとりの意識が積み重なって社会や経済が成り立つことがよくわかった。環境や地球の問題も同じで、長期的な対策が必要だし、個人の意識が鍵になる。それを多くの人が今、肌で感じているはずですから」
そう前置きしたうえで、感染爆発と地球が抱える課題は、切り離せない関係にあると警鐘を鳴らす。
「人間の自然破壊により環境バランスが崩れ、生息地を追われた野生動物が病原体を拡散し、コロナのようなウイルスが突出するという論調で語る学者も多い。このままだと、環境に負担をかけず、化学物質を軽減したものを選ばざるをえなくなりますよね。
また、6月中も異常な猛暑日が続きましたが、マスクをしながら生活すれば、新たに熱中症のリスクも高まる。すると温暖化対策も同時にやらなければいけないわけです」
安さ重視で商品を買う。何の気なしに手に取ったモノに、健康被害や未来を脅かすリスクが隠されていたら……。いつも買う商品の背景にあるストーリーは悲劇か、人や動物、環境を守ろうとする生産者の逆転劇か──。
猛暑と健康被害を加速させる野菜選び
「日本は農薬の使用基準が相当ゆるい。環境にも人にも悪影響のある農薬が野放しにされてきました」
NPO法人『食品と暮らしの安全基金』代表の小若順一さんが特に問題視するのは『ネオニコチノイド(ネオニコ系)農薬』だ。
「虫の神経に作用するほか、野菜や果物の受粉で重要な役割を果たすミツバチの大量死が国内外で長年指摘されてきましたが、日本は問題にしてこなかった」(小若さん、以下同)
EUでは2018年、ネオニコ系農薬の主な3つの成分の屋外使用を禁止。フランスは全面使用禁止にしている。
だが、世界中で規制が加速するなか、日本では稲作や青果の栽培に広く使われてきた。'15年には、ホウレンソウや春菊などの残留基準値を段階的に緩和したほどだ。
昨夏、北海道大学研究チームは「母親が食べたものから摂取したネオニコ系農薬は、胎盤を通り、胎児にも移行する」と報告。
一部の専門家は、子どもの脳の発達に悪影響を及ぼす可能性を指摘する。
「ネオニコ系農薬7種類のうち2種類は発がん性も認められています。水で洗い流せる農薬と違って、土にまくタイプの農薬なので、雨が降ると根から吸い込んで、葉を食べた虫を殺す力があります。
今年4月施行の改正農薬取締法でようやく日本も影響評価対象に飼育用ミツバチを追加し、一部制限が始まるようですが、これからですね」
では、環境にも人にもやさしい観点で作られた野菜をどう見抜けばいいのだろうか。
「化学合成された農薬や肥料の使用が禁止された『有機JAS』認証を受けた野菜は安全です。自然農法、自然栽培、無肥料栽培、循環農法と謳(うた)うこだわりの農家を見つけて宅配利用するのもいいですね」
オリンピック、パラリンピックの選手村で提供する農産物の条件として注目された『GAP認証』も覚えておきたい。
農薬のみならず、環境保全や働く人の安全など、栽培から出荷までに厳しいルールが細かく設けられ、第三者機関がチェックする。ローソンやイトーヨーカドーが日本独自の『JGAP』認証取得に取り組むほか、イオングループは、さらに厳しい国際基準である『グローバルGAP』認証取得を進めている。
「現在、全国のイオン直営農場全20か所で認証を取得しています。'18年より、グローバルGAP認証を取得した農場から出荷されたものとわかるように『GGNラベル』をつけた商品の取り扱いも始めました」(イオン広報担当者)
イオンでは地産地消コーナーにも力を入れ、全国300店舗で展開。これが地球温暖化防止につながると、前出の蟹江教授は評価する。
「フードマイレージ(生産地から食卓までの輸送距離)の観点で言えば、食材を長距離輸送する過程で温暖化ガスを排出し環境に負荷をかけます。フランスではCO2排出量を商品に表示していますが、日本では見えにくい。地元の野菜を選ぶこと、家庭菜園を始めることもエシカルな選択になると思います」