夫のうつ、そして乳がん発覚

 31歳で再婚した。相手は渋谷仁幸(まさゆき)さん。5つ年下の心優しい穏やかな男性だ。しばらくは平穏な日々だった。

結婚式のとき。夫は家族思いで優しく、うつ状態でも就職活動をしてくれていた
結婚式のとき。夫は家族思いで優しく、うつ状態でも就職活動をしてくれていた
【写真】家族思いで優しいご主人との結婚式

 仁幸さんは仕事をしながら弁理士の資格取得を目指していた。結婚から2年たったころ、仁幸さんはうつになった。当時、うつ病に対する社会的な理解はまだ浸透しておらず、仕事に支障が出ると会社を辞め、転職を繰り返すようになる。

 それでも家の中は穏やかだった。2人の仲はよく、出かけるときはいつも一緒だった。

 35歳のとき、大沢さんは胸に違和感を感じた。

「着替えのとき、何気なく胸を触ったら小さなしこりがありました。32歳のときに受けた子宮内膜症の手術後の治療の通院先でエコー検査をしたら、診断は乳腺症でした」

 ホッとして1年放置した。しこりは大きくなっていた。そこで再度、マンモグラフィーと針生検(細胞診)。診断は悪性のクラスIIIBとの見立て。3か月後に来るように言われた。

「その場で診断書をもらって翌日すぐに勤務先の病院でも検査を受けました。職場での受診はためらいましたが、そうも言っていられないし」

 すぐに針生検で6か所の組織診を行った。医療ソーシャルワーカーとはいえ、当時はまだがんを熟知していたわけではない。結果が出るまでの1週間はいたたまれなかった。ビクビクしながら同僚の看護師に尋ねた。

「針生検しようと医者が思った患者の中で実際にがんだったのは何パーセントくらい?」

 冷静になれば、その問いに答えられないこともわかっていたが、聞かずにはいられなかった。もちろん、看護師は答えてくれない。

「結果を待つ間のあの感覚は、医療職でも一般の患者さんと変わらないと思います」

 がんだと判明し、手術をすることを仁幸さんに報告したのは、その日の夜のことだ。

 仕事の合間に結果を聞き、そのまま仕事を続けて夕方、帰宅。食事を作る気分にはなれず、2人で近所の定食屋に行った。「うつで大変なときに伝えるのはかわいそうだな」と思いながら、大沢さんはできるだけ落ち着いてこう切り出した。

「あ、そうだ。結果出たよ。乳がんだった」

 仁幸さんは間髪入れずにこう言った。

「うそ!」

「私も、うそだと思ったけど。うそじゃないんだよ」

 仁幸さんはショックを受け、言葉を失っていた。