QOLを損なう!? がんや慢性病の治療

「どんな場合も“早期発見、早期治療”を掲げるのが、日本のがん医療です。極端な例としては、80歳を超えていても初期のがんが見つかれば、すぐ切除手術、それができなければ抗がん剤投与、放射線治療というのが『標準治療』になります」

 標準治療とは、専門家の間で最善と合意された治療法のこと。それに沿うなら、65歳以上では過半数があてはまる高血圧の人は、生涯、降圧剤を飲み続けることになる。

 それが保険適用になる治療法をまとめた『今日の治療指針』に記載され、標準的な医療となっているのが現状なのだ。

「問題なのは『今日の治療指針』にエビデンス(科学的根拠)がはっきりしないものや、時代遅れのものが含まれていること。

 例えば、がんの標準治療には、推奨している治療をした場合○年生存し、行わなかった場合は○年生存した、というようなデータがありません。

 ところが切除手術をすれば必ず身体を傷つけ、高齢者であれば術前術後に足腰が衰えたり認知機能低下の危険も。化学療法や放射線治療が身体に大きなダメージを与える可能性があります」

 85歳以上の高血圧治療では血圧を無理やり下げて低血圧の状態になると、頭がボーッとしてめまいやふらつきが出たり、味覚が変わって食べ物がおいしくなくなることも。

医師は患者さんと向き合って、一人ひとりが抱えている身体の苦しみや問題を解決するのが役割。不調や不具合で生活がうまく回らないのを、正しい方向へと戻していく手助けすべきなのに、画一的な治療によってQOL(生活の質)が低下してしまうのは本末転倒です」

 しかし、悩みや苦しみにつけ込み、何度も通院させたり、余計な薬を処方して診療報酬を荒稼ぎするような、ワルい開業医がいるのも事実だ。

「もちろん、単なる医師の勉強不足というケースもあります(笑)。とはいえ、そのせいで患者の幸せな生活が妨げられては医療の意味はありません。

 これからますます高齢化のスピードが上がる日本では、適切な医療的ケアを果たしてくれる『かかりつけ医』が重要だといわれる意味はそんなところにもあります」

 かかりつけ医は本来、自宅近くのクリニックや診療所にいて、健康に関することを何でも相談できる存在だ。

「すぐ薬を出したり、たくさん検査をする医者とは違います。徹底的に治療することだけが、患者とその家族の幸せにつながるとは考えません」

 生き方も価値観も、大きな転換期を迎えている令和。

「検査結果だけ見るのなら、今はAIがあれば十分。“ワルい医者”は今後、淘汰されていくと思います。上手に医師を選び、あなたの人生を一緒に考えてくれるかかりつけ医を見つけてください」