術後に始まったストーマ生活
術後は腸の縫い目に便が触れないように、3か月の期間限定でお腹に人工肛門を作ることになった。
「人工肛門というのは、腸の一部をお腹の外に出した排泄(はいせつ)のための出口のことで『ストーマ』といいます。手術でお腹に穴をあけて腸を出し、上から専用のパウチという袋を接着してそのパウチの中に便をためます。
当時は人工肛門って何のこと?という状態でしたし、自分のお腹を見るたびに大きな袋がついていて、嫌で仕方ありませんでした。とはいえ期間限定だったので、とにかくその期間を乗り切ろうという気持ちでしたね」
大変だったのは、たまった便をトイレに行って捨てるタイミング。そもそも便意を感じたり、便をためて我慢したりできるのは、肛門につながる直腸のおかげ。
その直腸を全摘したうえ、ストーマにはそうした機能がないため、排泄のコントロールができないのだ。
「最初は排便のタイミングが読めず、パウチからあふれないよう慌ててトイレに駆け込んでいました。行くのが遅れて漏れそうになったことも。慣れるまで苦労しましたね」
パウチの存在を隠すため、洋服にも気を配るようになった。
「身体のシルエットがわからないように、丈が長く、ふわっとしたデザインのチュニックをたくさん買いました。タイトな服を着なければ、外から見てもわからないので、それは助かりました」
1日30回トイレに行く日も
3か月後には一時的ストーマの閉鎖手術を行い、術後5日目には自分の肛門から、少量ながら細くゆるい便も出た。
「便が出たときはうれしかったです。でも私は直腸がないので、主治医から『半年から1年は頻便になりやすい』と言われていました。実際、食後2分おきに便意が押し寄せるようなこともあり、何度もトイレを往復したり、こもりきりになったり……。
トイレが近くにないと不安で、外出も控えるようになりました。我慢できないので、外出中に漏らしてしまうことも。夜用ナプキンが欠かせなくなりました」
排便コントロールに苦労しながらも、体調は良好だった佐々木さん。在宅勤務をしながら一時は日常生活を楽しめるまで回復したが、翌年に肺への転移が見つかり、左肺の一部を切除する手術と、術後の抗がん剤治療を受けた。
すると薬の副作用も重なって、排便障害が悪化してしまう。
「下痢と便秘を繰り返し、1日30回以上トイレに行くことも。力みすぎで肛門が痛くなり、ドーナツクッションが手放せなくなりました」
さらにベッドに入ってからも何度も便意が襲ってきて、眠れない日々が続いた。
「トイレに行っても少量しか出ず、強烈な残便感や痛みが残るんです。それが数分おきに繰り返され、夜中3時ごろまで苦しむ日が続きました。
どうしようもなくなり、メンタルクリニックを受診して睡眠導入剤をもらっていた時期も。でも残便感が勝って眠れなかったですね……」
睡眠不足が続いても、平日は在宅勤務と家事で忙しく、心身共に疲れ果ててしまう。
「最後は食事をするのも嫌になり、永久ストーマに切り替えることを決意しました。主治医と相談の末、2021年の年明けには手術を行いました」