人生を動かすほどの力を言葉に感じて
「言葉には魂が宿る」
そう信じてやまない北原はSNSで毎日、「心に響く名言」を発信し続けている。
北原を“大兄”と慕う、ジョニー大倉さんの長男・ケニー大倉は、
「ケン坊、人生は性格だよ」
と言われ、救われたという。
「破天荒なジョニーの息子として生まれ、“お父さんのように悪そうになれ”と言われ、プレッシャーで苦しくなり、一時期、芸能活動から離れたこともありました。
そんなトラウマを持つ僕は、大兄の人を思いやる気持ち、人に尽くす大切さを教えるこの言葉に救われました」
しかし北原はなぜ、言葉には魂が宿ると考えるようになったのか。そこには驚くべき実体験があったと話す。
それは今から12〜13年前の出来事。難病に侵された友人を勇気づけるため、北原は自らのライブに歌手・麻倉未稀をゲストに迎えた。
「そこで麻倉さんが山下真司主演のヒットドラマ『スクール・ウォーズ』(TBS系)の主題歌『ヒーロー』を熱唱。その動画を録ってすぐに友達に送り彼に聴かせると、泣きじゃくっていました」
その日から北原の友人は、麻倉の歌う『ヒーロー』の動画を、擦り切れるほど繰り返し見た。すると──。
「生存率20%といわれていた友達が曲を聴いて1か月もたたないうちに生存率70%になり、翌年には完治して退院することができたんです。しかも7月には結婚。子どもまで授かることができました。信じられますか?
それ以来“愛は奇蹟を信じる力”という歌詞が頭から離れなくなりました」
この日本語詞を手がけた人こそ、誰あろう。中森明菜の『少女A』やチェッカーズの数々のヒット曲を手がけた売野雅勇である。
ふたりはラジオ番組で出会い、今では“アニキ・売坊”と呼び合う仲になっている。
「僕はアニキのことを“音楽のような人”と呼んでいます。
僕の少年時代、ラジオからビートルズ、プレスリー、プラターズが流れてくると心がワクワクしました。ラジオを切った後も幸せな記憶は長く続きました。アニキと会うと、その“ワクワク”を、ものすごく感じるんです。アニキのように気持ちがきれいで心の美しい大人の人を僕はほかに知りません」(売野)
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たったひと言が人生を動かすと信じてやまない北原に、「今の若者たちに向けてひと言」とリクエストしてみた。すると、
「優しさ、思いやり、人の痛みを知る」
という言葉が返ってきた。
これは国民的な作家・司馬遼太郎が最後に残した言葉といわれる。
「この言葉があれば、戦争もない。いじめもない。SNSによる心ない誹謗(ひぼう)中傷もなくなる。私はそういう世の中がくることを信じています」
自信を失い、迷走する日本の未来を背負う若者たちに送る、北原照久のこのメッセージ。
あなたに届くだろうか。
取材・文/島 右近
しま・うこん●放送作家、映像プロデューサー。文化・スポーツをはじめ幅広いジャンルで取材、執筆。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、『家康は関ヶ原で死んでいた』を上梓。現在、忍者に関する書籍を執筆中。