おもちゃが紡いだ、かけがえのない出会い

 現在、北原が開いているミュージアムは『ブリキのおもちゃ博物館』をはじめ『北原コレクションエアポートギャラリー』(羽田空港第1ターミナル)、『河口湖おもちゃ博物館』、『京橋エドグラン』などの常設館があるが、そのほかにも世界各地で展覧会を開いてきた。

 振り返れば'03年から6年間にわたって開催された、フロリダ州ディズニーワールドでの『Tin Toy Stories Made in Japan』をはじめ、サンフランシスコ、ロス、ニューヨーク、香港、中国の深センなどでもさまざまなイベントを企画、プロデュースしてきた。

 写真集も各国で発売され、今や北原照久といえば世界に冠たるコレクターとして知られている。

「日本でオタクだと思われがちですが、海外では情熱的にモノを集め大切に保存する“徳の高い人”としてコレクターは尊敬されているんですよ

 北原はコレクションを通して多くの縁にも恵まれた。

「映画監督のスティーブン・スピルバーグジョージ・ルーカスも大のおもちゃ好きで、私のブリキのおもちゃをプレゼントしたことがあります。

 ポール・マッカートニーや、ミック・ジャガーも来日した時に招待され、夢のようなひとときを過ごしました」

 こうした縁を北原は“おもちゃの恩返し”と呼び、深く感謝している。

 現在、神奈川県にある1200坪の倉庫には、おもちゃをはじめ、明治、大正、昭和のポスターといった広告ものや、現代アートなどさまざまなジャンルの数えきれないコレクションが眠っている。

 これらのほとんどはメイド・イン・ジャパン。北原にはコレクターとしての矜持(きょうじ)がある。

日本のモノは名もない職人さんが手を抜かずに一つひとつ丁寧に作っているから仕上がりが素晴らしい。経済的にも弱くなった日本を僕のコレクションで勇気づけたい。日本の誇りをもう一度取り戻したい。そんな思いで今もコレクションを続けています」

からくり人形を手に、現代作家のムットーニ(武藤政彦)の作品『天使が来た夜』を熱く語る。コレクションはブリキのおもちゃにとどまらない 撮影/近藤陽介
からくり人形を手に、現代作家のムットーニ(武藤政彦)の作品『天使が来た夜』を熱く語る。コレクションはブリキのおもちゃにとどまらない 撮影/近藤陽介
【写真】人生初の蒐集品は小学生のころに一目惚れした「パーカー製万年筆」

 縁を大切にするコレクターの北原は、モノと同じくらい人との縁も大切にしてきた。

 5月22日に『熊本マリ&北原照久“よこはまトイ・シンフォニー”』で共演するピアニストの熊本マリ。6年前、実は彼女は脳梗塞で倒れている。

「食事もとれずに、寝たきり状態。これからどうなるのかもわからず、不安だった私に北原さんは毎日励ましのメールをくれました。

 お見舞いのメールは言葉のチョイスを間違えると相手を傷つけてしまう。どういう言葉を使えば相手を励ますことができるのか。北原さんはよくわかっている人だと思います。そのメールを何度も読み返して元気をもらいました。今後もみんなに愛と希望を与え続けてほしいですね」

 と振り返れば、情報番組『ジャスト』(TBS系)で共にコメンテーターを務めた安藤和津は、夫である奥田瑛二が初めてメガホンをとった映画『少女~an adolescent』で忘れられない思い出がある、と回想する。

「映画製作中に、信じていた知人に映画資金を持ち逃げされてしまい、私の持っていた指輪やバッグ、使っていたお皿まで売り払いました。それでも焼け石に水。途方に暮れていると、北原さんが横須賀市佐島のお宅でパーティーを開いてくださり、事情を説明してファンドを募ってくれました。

 お金ももちろんですが、人に裏切られ不信感でいっぱいだった私たちに、人間はそういう人ばかりじゃないよと教えてくれた、心を救ってくれた人生の恩人です」

 さらに家族ぐるみの付き合いをしている安藤は、こう話を続ける。

おもちゃの博物館をつくることは、映画を作るよりもリスキー。そんな夫の背中を押し続けてきた旬子さんの存在があってこその、今の北原さんだと思います。2人合わせたら、無限大の最強のパートナーですね」